脳の病気とケガ

脳卒中は予防できるか?

脳卒中は脳血管の障害に伴って発症する脳病変の総称で、脳出血、脳梗塞、クモ膜下出血などを含んでいます。最近はTV、新聞、雑誌など様々なメディアで盛んに脳卒中が取り上げられていますが、こうした現象は一つには国民の関心度の高まりを反映しているものと考えます。脳卒中は最近非常に変化してきています。死亡率は減少していますが、発症率は横ばいです。また病型にも変化が見られ脳梗塞、クモ膜下出血が増加し、脳出血は減少しています。当院に外来受診・入院される方々は全てが脳疾患発症者ではありません。むしろ外来受診者の大半は頭痛・めまい・しびれといった自覚症状が脳卒中を発症したり、その前触れではないかという不安のため検査を希望される健常者です。検査結果を聞いて異常が無かった時、受診者の全員が安堵して「先生、大丈夫なんですね?脳梗塞になりませんね?」と質問されます。ここで注意したいのは、検査結果が異常なかったのと将来脳梗塞を発症しないという事はイコールではないという事です。では脳卒中を予防するためには何に注意すれば良いのか、またどんな症状が見られた際に病気の前触れないし発症したと考えられるかについて病型別にお話してみたいと思います。

1. 脳出血(図1)


図1(a,b) 重症の脳出血。
出血量は150ml以上あり、救命のため
開頭血腫除去術を行った。
脳出血はわが国では脳卒中の約30%を占めています。60~70歳代の男性に多く(女性の1.3倍)、出血の原因の8割以上は高血圧によるものです。高血圧の方がなぜ出血するかというと細い血管(穿通枝という直径0.1~0.3mmの血管)に高い圧がかかって小さな動脈瘤が出来上がり、それが破裂して出血が起こるわけです。症状は突然出現し、運動麻痺が81%、意識障害が53%、頭痛や嘔吐は約30%に認められます。また冬期間に多く発症し、夏はかなり少ないようです。さらに活動時とくに午前7時と午後5時に多く発症する事がわかっています。さて発症後の治療ですが、最近は出血を取り除く手術は限られた場合に行われています(全体の20%)。それは手術しないと救命出来ない場合です。なぜ手術が行われなくなったかといいますと、出血が起こった時点で脳の機能は破壊されているので出血を取り除いても機能は回復しないと考えられているからです。裏を返せば大方の出血は保存的治療とリハビリテーションで済んでしまうわけですが、中には非常に早い時期に血腫を除去して症状が軽くて済んだ患者さんもいます。治療後は不自由無く自立10%、不自由だが自立31%、介助生活24%、寝たきり14%、死亡21%といった割合になっています。残念ながら発病の前兆は無く、症状が見られた時には脳出血が起こっています。従って脳出血を予防するためには何より高血圧の管理に尽きます。血圧を毎日測って高い状態(大体140/80mmHg位まで)が続かないように注意する必要があります。さらに血圧を上げる要因となる喫煙(絶対に禁煙)と過度の飲酒(酒なら一日2合まで)、塩分の取りすぎ(一日10gまで)にも気を付けなくてはいけません。また高血圧の方の頭部MRIで既に脳出血が起こっていた事が明らかとなる場合もあります(微小脳出血といわれています)。微小脳出血があると、やがては症候性の脳出血を発症しますので血圧の高い方はいちどMRI検査をしてみると良いでしょう。
2. 脳梗塞(図2)

図2(a,b)
a.発症1時間のMRI(DWI)。
右大脳半球内の白く淡い部分(矢印)
は脳梗塞ができあがりつつある。

b.MRA(血管の検査)では右中大脳
動脈の高度狭窄(矢印)が確認された。
脳梗塞はアテローム血栓性、ラクナ、心原性といったタイプに分かれます。他に一過性脳虚血発作(TIAと省略されます)といって脳梗塞の前段階と考えられる病気もあります。病型別に簡単に説明しますとアテローム血栓性は中~大血管の動脈硬化性狭窄や閉塞によって、ラクナは直径0.2mm位の細血管の閉塞で、心原性は不整脈(心房細動)や心臓弁膜症が原因で脳血管に血の塊が流入して血管を閉塞します。TIAは脳血管が狭窄した事で、狭窄部から微小血栓が脳の末梢血管に流入したり血圧の変動によって脳血流が低下して症状が出現します。この場合血流はごく短時間のうちに再開しますので、症状は多くは数分で消失します(本来は24時間以内に消失するといわれていましたが、MRIを始め画像診断の進歩に伴って実はその中に軽症の脳梗塞が含まれていた事が明らかとなっています)。割合としてはアテローム血栓性が30%、ラクナ38%、心原性20%、TIA6%その他6%です。実は大都市圏ではラクナがかなり減少し、心原性が非常に増加しています。これは食生活の欧米化に原因があります。北海道の場合は(当院受診者も)ラクナが多く、心原性が少ないのが現状です。では脳梗塞が実際にどんな人に、いつ、どのような症状で発症しているかを知って頂こうと思います。厚生科学研究班の報告によりますと、脳梗塞患者の平均年齢は70±10歳で男性が6割以上でした。約8割の方は自宅で発症し、44%は活動時でした(という事は眠っていて朝起きたら発病していた人が多いわけです)。発症時の症状では意識障害が33%、顔面麻痺43%、運動麻痺(同じ側の手足の麻痺)38~42%、感覚障害(顔を含めた同じ側の手足のしびれや感覚の違和感)39%、口調のもつれ58%でした。外来で両手(腕)や両足のしびれが日によって起こったり消えたりする、あるいは手の平や足の裏といった末梢部分に限局してしびれるという話を良く聞きますが、この場合はごく稀な病気を除いて大部分が整形外科疾患です。少なくとも両方の手や足に起こった場合は最初は整形外科医を尋ねると良いでしょう。発症後の早期治療の重要性が強調されていますが、血液の途絶した脳は約5分で細胞の活動を停止します。従って治療の目的は、虚血部位が拡大しない事と再発の予防です。治療内容や治療結果は病型によって隔たりがあります。薬物治療はいずれの場合でも抗血栓療法、抗血小板薬、脳保護薬、抗脳浮腫療法と心原性の場合は抗凝固薬を使用します。心原性とアテローム血栓性で脳内の太い血管が閉塞した場合は、血栓溶解剤の点滴やカテーテルという細い管を使って閉塞血管に直接注入する事があります。ラクナ梗塞には薬物療法以外に有効な治療はありません。また発病してから約3日で3~4割の患者さんは治療をしていても症状が悪化します。これは脳梗塞という病気の特徴でもあり、また真に有効な治療薬が存在していない現われでもあります。アテローム血栓性の一部の患者さんでは再発予防を目的とした外科手術が行われる場合があります。脳梗塞が起こりやすいと考えられる人は高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙、多量の飲酒、心疾患、脳卒中の既往を持っている人達です。これらは危険因子といわれ、数が多いほど発症するリスクは高くなります。逆に因子を全く持たない人が脳梗塞を発病することは殆んど無いので、知り合いや会社の同僚が病気になったからといって自分の身を心配する必要はありません。やはり予防のためには内科疾患の管理を徹底して禁煙に努め、飲酒を制限する事が大事です。最後に、同じ側の手足に起こった顔を含めた麻痺や痺れは脳疾患の可能性がありますので、ぜひMRI検査が出来る病院を受診すべきでしょう。
3. クモ膜下出血(図3)

図3(a,b,c) a.b.重症のクモ膜下出血。脳室内にも出血が及んでいる。

c.3D-CTA(血管の検査)で前交通動脈瘤 (矢印)
破裂と診断した。

原因の8割以上は脳動脈瘤という、脳血管に出来た瘤が破裂して発病します。一年間に人口10万人当たり15人位の発症率ですが、地域差もあるようです。因みに当院には年間60人位の患者さんが入院します。40~50歳代にピークがあるといわれていますが、出血率は年齢と共に高くなっていきます。女性に多く(男女比1:2)、発症1ヶ月死亡率が33~61%と高いのも特徴です。脳動脈瘤を持っている場合、クモ膜下出血を起こしやすい危険因子として女性、喫煙、高血圧、飲酒、経口避妊薬、以前出血したことがあるなどがあげられます。初発症状は突然激しい頭痛(後頭部が殆ど)と嘔気・嘔吐が起こり、意識障害を伴う事が多いのですが、脳出血などと違って大きな血腫が出来ない限りは手足の麻痺は起こりません。ごく稀ですが、非常に軽い出血の場合は頭痛がしたといって歩いて外来にくる方もいます。再出血した時は50%が死に至るため、早めの治療(外科手術や血管内手術)が必要です。しかし治療しても30%の方は何らかの後遺症が残り、社会復帰出来るのは30%強です。ではどうやって予防するかといいますと、やはり先程述べた危険因子を減らす(禁煙、血圧の管理、飲酒を減らす、ピルの長期使用は慎重に)事です。さて出血していない脳動脈瘤が見つかった時はどうすれば良いでしょうか?2001年から日本の脳外科病院全体での未破裂脳動脈瘤の予後調査がまとめられました。そこではどの部位にあるどんな大きさのものがどの位の危険率で出血しやすいかということが判ってきました。ですからもし脳動脈瘤があったとしても全てが治療の対象となる訳ではないので、検査を受けた施設で十分に説明を聞くのが宜しいかと思います。
4. 最後に
当院での脳ドック受診者にも症状の無い脳梗塞や脳出血、脳動脈瘤が見つかった人達がいます。そうした場合に注意するのは脳卒中を発病させる危険因子をいかに減らしていくか、管理していくかという事です。ですから検査を受けて安心するのではなく、どんな危険因子を持っているかを知る事が病気の予防につながります。検査結果を聞いて院外でタバコを吸っている方を見かけます(院内は全館禁煙です)が、どんな病気であれ発病するのも予防出来るのも結局は本人の病識(病気に対する知識と理解)が最も重要だと考えます。

山村明範:北海道百科Vol.2 p82-83、2004.9.20

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